俺は今、特別養護老人ホームで正社員の介護職員をやっている。
俺は今、ウクレレ教室に通ってウクレレを習っている。
俺は今、あきらめずに小説を書き続けようとしている。
元々、大阪のキャバレーで働きながら劇作家をやっていた俺が、
会社が業務縮小になったり病気になったり十年付き合ってた恋人と別れたり家族が死んだり、
なんやかんや色々あって逃げるように東京にやってきた。
介護職員やりながらウクレレ弾きながら小説書こうとしている。
こんな今の生活は、もしかしたら決められていた運命やったんかも知れん、とちょっとだけ思う。
俺がこんな生活しているやろうという予言のような物は確かにいくつかあった。
俺が十年付き合ってい彼女は、出会った頃某薬品メーカーのOLやった。
俺が師匠の劇団を辞めて自分の劇団を旗揚げすると同時にOL辞めて、
パチンコ屋でバイトしながら音響制作の専門学校に通い始めた。
その後、俺の会社も劇団も傾き始めた頃、彼女はヘルパーの資格を取って介護職員になった。
今は看護師になってそこそこ偉い地位になっているらしい。
俺は今でも彼女のバイタリティーを尊敬している。
俺が大阪を逃げるように離れるちょっと前、
最後の公演の稽古をやっていた頃、これからは介護の時代やでと周りから言われていた。
大阪を離れて豊田で一年間自動車を造っていた頃、
名古屋で出会った女の子が介護職員やった。
彼女にも介護の仕事やってみたら、と勧められていた。
実は、東京に来て、まだ何をしたらええか分らんかった頃、
マジで介護の勉強をしようと思っていた時期があった。
その頃、小説を書いてみたらどう、とインターネットで出会った親友に勧められて、
俺は定職に就くことよりも物語を創り続けて生きて行く方を選んだ。
小説は、その時初めて書こうと思ったわけやなくて、
高校の時はかなり本格的な文芸同人誌に書いたりもしていた。
劇団時代に付き合っていた彼女にも、死んでしまったお母さんにも、
劇の師匠にも小説を書いてみたらどうと勧められていた。
ほんまに小説を書くようになってから、根性がなかったのか、
精神を壊してボロボロになった。駄目人間になってしまった。
ウクレレを弾くようになってから、精神状態がかなり良くなった。
今からウクレレをどれだけ頑張っても、音楽で食っていけるわけはない。
それがいい、それでいい。
小説もそれでええんちゃうかと思えるようになった。
普通に真面目にちょっとでも何か人の役に立つ仕事をやりながら、
諦めないで書き続けられたらいいと、やっと思えるようになれた。
ウクレレは、俺は高校生の頃吹奏楽部やったのと、弟がロッカーやったので、
ロッカーって荷物入れる箱ちゃうで!
エレキギターとかベースとかちょっと齧ったことがあったので音楽には縁があった。
俺は劇作家であると同時に音響スタッフとしても活躍してたしね。
劇団時代の彼女に、ウクレレやったらアパートでも練習出来てええんちゃう?
と言われたことがあったのを思い出した。
東京に来て、西武新宿駅のビルの中の楽器屋さんで赤いウクレレを見て、
生活がマシになったらああいうの買ってみようと決めていた。
俺の愛用のウクレレはフェイマスのfs7レッドサンバーストモデル。
赤いウクレレを弾きながら、介護職員として真面目に働きながら、
楽しく小説を書いて行く。
今の俺の生活を、劇団時代の彼女が見たら何て言うやろう?
アンタはほんまに俺のことをよう見ててくれたなと今感じている。
実際、介護職員て給料安いし借金のある俺の生活は楽にはならない。
実際、毎日の仕事はキツイし執筆する余裕は殆どない。
実際、俺はまた物語で食って行く生活に戻れるんやろうかと悩んでしまいそうになる。
二ヶ月後、年末締め切りの文学界新人賞を今年も書く。
介護職員やりながら、ウクレレ弾きながら、
何よりも周りの大切な人たちと、遠くの親友たちが元気でいることを願いながら。
ウクレレの弦は4本。四弦……、予言……、今日の記事はそんな感じで思い付いた。
心優しい物語作家への道程を元気で楽しく歩いて行くさ。
輝樹